乳房再建手術について(形成外科)
*本院は乳房再建用エキスパンダー実施施設認定施設及び乳房再建用インプラント実施施設認定施設です
乳がんによって失われた乳房を新たに作る手術が乳房再建です。
健側の乳房の大きさ、体型、職業などの社会的因子などを考慮し再建方法を考えていきます。
実際の乳房再建について開設致します。
Ⅰ.乳房再建時期について
1、一期再建:乳房を切除するのと同時に乳房再建を行うことです
2、二期再建:乳房切除術を既に行っており、乳房が欠損している状態の場合に再建を行うことです
※説明の最後にご自分にあう手術法を当院の再建の流れのフローチャートでご確認下さい。
Ⅱ.皮膚の切除方法について
皮膚の切除デザインは、乳房再建において、整容上に大きく関わる要素となります。
通常の乳房切除時の皮膚切開(図1)は乳輪乳頭を含め、紡錘状に皮膚を同時に切除します。
この場合は、大きな皮膚欠損を生じます。
当院では根治度はもちろんのこと、乳房再建の整容上にも配慮し、乳輪乳頭温存乳房切除術(nipple sparing mastectomy:図2)、皮膚温存乳房切除術(skin sparing mastectomy:図3)を行っています。
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図1 通常の皮膚切開
図の説明 乳輪乳頭を含め紡錘状に赤線で囲った部分が皮膚切除範囲です。 この場合は紡錘状に皮膚の欠損が生じます。 |
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図2、乳輪乳頭温存乳房切除術(nipple sparing mastectomy)の皮膚切開 乳輪乳頭を温存できる場合の切除方法です。 赤線の部分が皮膚切開線となります。 わきの下の側胸部に傷がくるため、前方から傷が見えにくくなります。 また、当院では術後の傷の引きつれなどが生じにくくなるなどの整容的目的でジグザグに切開する工夫を行っています。
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図3、皮膚温存乳房切除術(skin sparing mastectomy) 乳輪乳頭も含め乳腺を切除する場合の方法です。 赤線の部分が皮膚切開線となります。 乳輪をくりぬく切開と側胸部の切開となります。 通常の乳輪乳頭を含めた紡錘状に皮膚を皮膚を切開する方法に比べ、整容上優れています。 くりぬいた乳輪部分には再建組織の皮膚を補うことにより、切除前の乳房により近い形の再建が可能となります。 また乳輪部分に補った皮膚の部分は後に乳輪乳頭を形成することができます。 |
Ⅲ.再建組織について
1,自家組織を使用する方法
自分の組織(皮膚、脂肪、筋肉)を使って再建を行います。
自家移植なので柔らかい乳房が再建できます。
健康保険が適応されます。
再建に使用する組織は背中の組織を用いて行う広背筋皮弁と下腹部の組織を用いて行う腹直筋穿通枝皮弁(DIEP flap)や腹直筋皮弁など再建方法があります。
1,背中の組織を用いる方法
背部にある広い筋肉(広背筋)を用います。背部の皮膚は斜めに切りまわりの脂肪も付けて胸に移動します。
採取組織量が少ないため、大きな乳房再建には不向きです
広背筋皮弁の図の説明
背部にある扇状の広い筋肉(青色で囲んだ部分)と皮膚の一部(赤色で囲んだ部分)を使用します。拳上した広背筋と皮膚脂肪組織を脇の下の皮下を通して振り子のように前方にもっていき乳房組織欠損部に充填し再建します。
2,腹部の組織を用いる方法
腹部にある筋肉、皮膚、脂肪を用います。
採取組織量が多いため、大きな乳房再建には適します。
下腹部の組織を利用するためお腹をひきしめることができます
- 腹直筋皮弁
- 腹直筋穿通枝皮弁
- 組織拡張器(エキズパンダー)と人工乳腺(シリコンインプラント)を使って再建を行います。
人工物を使うため、体の他にキズをつけなくてすむこと手術侵襲が少ないことがメリットです。
人工物でありますので、自家組織より感染に弱く、下垂のある乳房には適応しにくいことがデメリットです
腹直筋皮弁とは、腹筋の片側を使用し下腹部の脂肪と皮膚を胸へ移動し
乳房を再建します。
腹筋の片側を使用することで腹壁の強度が弱くなることがデメリットです
有茎腹直筋皮弁の図の説明
腹部に縦に2本並んでいる腹直筋の1本(オレンジ色の縦線)を皮膚脂肪を含め拳上します。赤色で紡錘状にデザインした皮膚と脂肪で乳房のボリュームになる部分です。皮下を通して対側の乳房欠損部に充填します。
腹部の皮膚と脂肪を栄養血管とともに採取し、乳房を再建します。
一度栄養血管を切り離すため、顕微鏡下に血管をつないで皮膚、脂肪への血流を再開させる必要があります。
この方法は、腹筋の犠牲が少ないため術後の腰痛やヘルニアなどの問題が少ないというところがメリットです。
デメリットは血管をつなげた部分が詰まって皮弁を失うリスクが約5%程度あります。
遊離腹部皮弁 DIEP FLAP
デザインは有茎腹直筋皮弁と同様で下腹部に赤で囲んだ部分の皮膚脂肪を拳上します。皮膚と脂肪だけを欠損部に充填するだけでは壊死をおこしますので、脂肪につながっている血管を吻合します。そうすることで皮膚と脂肪に血流が再開します。
2. 人工物を使用する方法 (昨年より保険適応となりました)
1,組織拡張器(エキスパンダー)挿入術
組織拡張器(エキスパンダー)挿入術
乳房切除術と同時(一次)または二期的に組織拡張器(エキスパンダー)を挿入します。
外来にて2~3週に1回の割合で生理食塩水を注入して健側乳房の大きさ程度まで拡張していきます。
膨らませたエキスパンダーは初回手術より半年以上して抜去し、人工乳腺(インプラント)または自家組織に入れ替えます。
2,人工乳腺(インプラント)挿入術
乳房切除術と同時(一次)に人工乳腺(インプラント)挿入します。
エキズパンダー挿入術の図の説明
エキズパンダーを大胸筋(オレンジ色斜線)の下に挿入し少しずつ生理食塩水を注入して、対側の乳房と同じぐらいの大きさに拡張します。
その後、シリコンインプラントまたは自家組織に入れ替えます。
3,乳輪・乳頭再建
乳房再建術が終了し、術後半年以降再建乳房が落ち着いた時期に行います。
乳輪・乳頭形成術はさまざまな方法があります。
乳輪に関しては、足の付け根の色調の濃い皮膚を移植したり、刺青を行ったり、反対側の乳輪に余裕がある場合は、反対側の乳輪を一部採取して植皮を行ったりする方法があります。
乳頭に関しては、反対側の乳頭に余裕がある場合は一部を取って移植する場合や、乳頭形成位置の皮膚を利用して皮弁を作成し乳頭を再建する方法があります
乳房再建の希望がある、少しでも興味のある患者さまは、乳がん手術前に乳腺外科受診時にご相談していただき、形成外科での診察・ご相談をお勧めします。